Flow of ask

ほぼ日常に関することや愚痴を中心に、趣味などを。更新は月一がいいほうです。

病ノ章_隔離病棟

前回の続きです、が
R-15Gです。グロの表現ありますので注意











AF達が廃校へ向かっているとき、崎守あきらは自分の病室に戻っていた。
彼は幼い頃の事故によって家族を失い、両目の視力を失ってしまった。それ以来病院に何百年も入院しているのだ。
盲目になってからは彼はお面がわりに紙を貼って顔を隠すようになっている。
あきらは隔離病棟が嫌いでならなかった。
隔離病棟は精神異常者が多く居り、医者や看護師も数える程しかいない。
まるで自分が目が見えないだけで異常者扱いされているようで、彼は嫌であった。
そんな彼が唯一心癒される時間があった。


「あきら、おはよう!」


彼の病室に入ってきたのは青いジャージを着た灰色の髪の女の子。
彼女は青子。彼女も元はこの隔離病棟の患者だ。
そして青子の後ろにいる、体が透けている赤ジャージを着た黒髪の男の子が青子の弟の赤也。
青子と赤也は双子の姉弟。だが彼女たちは残忍な親に4畳半の部屋に閉じ込められたのだ。
救出されるまでの数ヶ月間、彼女たちは飢えに耐えていた。しかし、赤也は耐え切れず救出される三日前に息絶えたのだ。
赤也が死んで悲しみに溺れ自殺を決意した青子を助けたのがあきらであった。
それから、二人は意気投合して数百年間この病棟で会話をしている。


「あきら、あきら!あきらは世界革命団に入らないの?」
『……あきらも入ろうよ』
「でも、俺が入ったらね……俺盲目だから足でまといだし」


青子と赤也はそんなことない、とあきらを説得する。だか彼は首を横に振るだけ。
最近はこれが三人の日常だ。他愛の無い話をして青子と赤也があきらを世界革命団に勧誘する。
いつもと同じだった。そう、この時までは。
――――バァンッ!!
隔離病棟に銃声が響き渡った。
三人は音に驚き病室の入口の方を見る。あきらの病室は4階、下の階が何やら騒がしい。
あきらはその今までにない騒動を知っていた。
『立てこもり』、まさしくその言葉通りなのだろう。病棟など患者とひ弱な看護師と医者しかいない。立てこもりの人質にするならいい獲物だ。
彼は冷静に分析し始める。『立てこもり犯』は銃を持っているのだろう。
そしてこの大きな隔離病棟を占拠するのだから、おそらく一人ではなく複数人。二人以上、十人未満の可能性が高い。
軽く分析を済ませると、あきらは生身である青子を自分のベットに寝かせ、赤也もその場に居るように指示をした。


「あきら、嫌だよ、あきら」
『……あきら、もしかして囮になるの?』


赤也がそう言うとあきらは困ったように頭を掻く。
それと同時にあきらの病室に立てこもり犯が二人、銃をあきらに向けて突入してきたのは。
彼は立てこもり犯に向き直って両手を上げる。そして立てこもり犯にこう言った。
「彼女は私の妹なんですが病弱でしてね、無理に動かさないであげてください」と言うと立てこもり犯は子どもは無害と思い、あきらだけを連れて病室を後にした。
立てこもり犯の足音が遠くなっていくのを確認して、青子はベットから起き上がる。
先ほど、彼女らはあきらからこれからの行動を教えてもらっていた。
まず、立てこもり犯が居なくなったら凌央に連絡をして助けを呼ぶ。
次に、凌央達が来る間に情報収集をできるだけ行う、ということだった。


「あきらの携帯……あ、あった」
『……青子、こう打ったら?』


赤也は耳打ちして文章をいうと、青子はその文章をメールに書き込んで送った。
これで凌央たちに助けを呼ぶことはできた。だが問題は情報収集である。
彼女は子供だから動きは俊敏だ、だが目立つ姿が印象的なので見つかる可能性が大きいのだ。
そんなことを気にしない青子は辺りを警戒しながらあきらの病室を出る。
青子の後を赤也は心配そうな顔で追いかけていく。
下の階に降りてくと、正面玄関に人質の患者と看護師や医者が集められていた。


「……あきら……」
『青子。あきらを助けるためにも、あいつらの弱点をみつけようよ』


二人の目線の先には紫色の髪のあきら。彼の髪色は目立つのですぐに見つけることができた。
だが手を縛られ、口を塞がれているようでただただ大人しくしているように見える。
青子は泣きそうになりながらも上の階に戻ることにした。
ここからは別行動をとり、赤也は霊体なので人質たちの上空から敵の動きを観察、青子はできるだけあきらの病室で待機することになった。








一方、廃校では凌央達が青子が送ったメールを受け取っていた。
AFと凌央以外が慌ただしくせわしなく焦り始める。
何かを少し考えると、凌央はレイとAFを同行させてほかの全員は待機の指示を出した。
団長はレイなのだが司令官は凌央のようだ。
レイとAF以外はブーイングを上げ始めるが凌央の一睨みでそれはすぐに無くなる。
そして彼は携帯を弄り電話をかけ始める。電話相手は嫌々ではあったが同行すると承諾した。


「凌央、今の、誰?」
「今のはEnvyっていう団員の一人だ」


AFはそれだけを聞くと納得して、これからの初任務にわくわくしているようだ。
三人は身支度をパパッと済まし終えると占拠されている隔離病棟へと向かう。
隔離病棟まであと少しの道に白髪で右目だけが閉じている少年が立っていた。
その少年の背中から白い翼が生えているのが一際目立っている。
彼は腹部を苦しそうに抑えながら、凌央に気づいて睨んできた。


「アレックス、僕にも都合が……AF?」
「……へ?だ、誰?」
「……そっか。記憶ないのか。僕はEnvyだよ」


Envyは自己紹介を終えた瞬間に、後ろを向いて吐血した。
いきなりの吐血にAFは驚いたがすぐにレイがいつものことだからと笑っている。
一同が揃って隔離病棟の見取り図を眺める。どこで見取り図を手に入れたのだろうか。
正面玄関と裏口の位置を確かめ、赤マルを付ける。
立てこもり犯は正面玄関と裏口両方を見張っていると仮定して、ほかの入口は屋上しかない。
屋上にも見張りが入る可能性はあるが、この隔離病棟は隣接する建物もないため警察の屋上からの突入は考えられない。
それを踏まえて凌央は突入の手立てを決め始める。


「まずEnvyは【飛行】でAFと屋上から入れ。俺とレイは裏口から入る」
「え、でも凌央兄、AFはまだ【輝石】を使いこなしてないよ?」
「大丈夫だ。なあ、AF?」


凌央がAFの頭を撫でながら微笑むと、AFも笑顔でいい返事をした。
心配そうな顔の二人をよそに彼らは話している。誰かのため息が響いた。
一行はそのまま隔離病棟へと向かった。
隔離病棟につくと、そこは警察やら野次馬やらで埋め尽くされていた。正面玄関の奥から立てこもり犯らしき人影も見える。
Envyは凌央の指示通り、AFを抱えて飛びあがり、屋上に着地した。
屋上には見張りはいないようだ。


「……AF、準備はいいか?」
「うん、いい、よ」


二人は屋上を後にした。
その頃、青子はあきらの病室でうずくまっていた。
一階から聞こえる人質たちの泣き声と立てこもり犯の暴言と発砲音。彼女は激しい騒音に怯えていた。
赤也はあれから彼女の元に戻っておらず、なお青子は不安にさいなわれていた。
丁度その時だった。赤也が帰ってきたのだ。
彼の姿を見て安心したのか、ボロボロと泣き出す青子をみて赤也があわあわと慌てる。
「遅いよ赤也ぁ!」「ごめん青子……」まるで恋人のような姉弟である。
青子が泣き止んでから二人で今の状況と立てこもり犯のことを話し始めた。
どこが手薄で、どこが危ないのかなど。人質の被害情報や、外の状況なども。


「あきら……絶対助けるからね」
「誰を助けるって?」


刹那、青子は殴り飛ばされた。
いつの間にか立てこもり犯の一人があきらの病室に入ってきていたのだ。そして会話を聞かれた。
立てこもり犯は青子の髪を掴んで持ち上げる。彼女は痛みと怖さで泣きじゃくっている。
その間も赤也は立てこもり犯をどうにかしようとするが体が透けているために何もできずにいる。
立てこもり犯は青子の口に銃口をねじ込み、卑しい笑みを浮かべる。
青子は嫌だ嫌だとなくが、立てこもり犯は引き金を引こうと指をかけた、が。彼は崩れ落ち、青子は解放された。
立てこもり犯の後ろにいたのは先程まで人質だった崎守あきらであった。


「あき、ら……あきらぁあッ!!」
「ごめんね青子、赤也。怖かったでしょ、本当にごめんね」
『バカあきら!遅いんだよバカッ!バカッ……!』


感動の再会を果たし、三人は気絶させた立てこもり犯を縛り上げるとその場を後にした。
あきら達が向かったのは裏口。裏口にいる立てこもり犯は2人。一人は拳銃を持っているようだ。
まずは赤也に二人の脅かし役をやってもらうことにした。
赤也は渋々頷いてポルターガイストのような物を浮かせたり、浮かせたものを立てこもり犯に当てたりした。
すると運のいいことにそれが銃を持っている立てこもり犯に命中し、そいつは気絶した。
気絶したのを確認するとあきらは物陰から飛び出し、凌央からもらった鉄線を使いもう一人の動きを封じた。
立てこもり犯の声で仲間が来ては困るので、立てこもり犯の口をそこらにあった布で猿轡にし声を封じた。


「あきら、コレ!」
「ん?……あぁ、もしかして拳銃かい?危ないから俺が持ってるよ」
「うん!わかった!」


青子があきらに拳銃を渡した。
その瞬間、あきらが青子を庇うように覆いかぶさったと同時に銃声。
どうしたのかと彼女があきらを見るとあきらの周りに飛び交う赤い液体が目にはいった。『血』だ。
よく見るとあきらの腕から血が飛び出ているのだ。
そして銃声がした方を見れば、立てこもり犯が一人、ライフルを持って立っていた。


「あきら……っ」
「っ……だい、じょうぶ……ッ」


するとまた銃声、あきらが低く悲鳴を上げた。
もう自分を支える力が無くなった来たのか、あきらの体が青子にほとんど覆いかぶさっている。
ポタポタ、と青子の顔に落ちてくる血。
彼女があきらを見ようとして、悲鳴を上げそうになった。
あきらの顔から下、喉に空洞があいており、そこから血が滴り始めているのだ。
喉に穴があいている状態のためヒューヒュー、とすきま風のような音が聞こえてくる。
青子が立てこもり犯を見るとライフルをこちらに向けていた。もうだめだ、と目をつぶるとバチバチッという音が聞こえた。


「ギャアアアアアアアアア!!!」
「……うるさい声だなぁ。あ、AF、電撃止めていいよ」
「……わかった」


青子が目を開けるとそこにいたのはEnvyとAF。
彼女にとってはAFは初めて見る子であるが、彼が青い電流をまとっているのを見て彼が助けてくれたのだと理解した。
「Envy、助けて!あきらが、あきらが死んじゃうの!」と泣きながら悲痛の声を上げる青子をEnvyは落ち着かせる。
赤也は一時呆然としていたがすぐにハッと裏口から外に出て、裏口から入ろうとしていた凌央たちを呼ぶ。
事の一大事に凌央達はすぐに駆けつけるとあきらの周りは血の海、青子の青いジャージも赤いジャージになりかけていた。
凌央はあきらを起こし、彼もあきらの喉の空洞を見て口を押さえた。
これは助からない、そう瞬時に判断できた。凌央が首を横に振ると、青子は大粒の涙を流してあきらにしがみつく。
息が止まりかけているあきらを皆が泣きそうな顔で見ていた。その時だった。あきらの顔にあった紙が吹き飛び、彼の両目がかっ開いた。
灰色の左目と橙色の右目が七色に光っているのだ。
するとジュウウウウ、と音を立てて喉の空洞がみるみる塞がっていく。そして怪我などなかったように喉は元通りになった。


「ッ……ゲホッゲホッ」
「あきら、あきら!!あきら、良かった、ひっく……うぅ」
「……青子、ごめんね、心配かけて」


その目には相変わらず光は写っていないが、灰色と橙色の瞳には優しさが見えている。
これにレイが【輝石】があきらの両目にあるのではないかと疑い始める。
だが今はそれどころではない。
立てこもり犯は正面玄関にあと3人居るようだ。しかしそれはすぐにレイの【突風】により解決した。
警察に事情を聞かれると厄介なので、とりあえず崎守あきらを連れて凌央の家へと向かった。
喉の空洞は治ったが、腕の傷は治っていないため、止血しながらの移動となった。
家に帰ると、居残り組が心配そうに玄関で待機していた。


「あきら!?大丈夫か、今救急箱持ってくる!」
「僕たちは部屋に連れていきます」
「ごめん、ありがとレオくん、勇気くん」


このあと、あきらは凌央に怒られ、病棟に戻ってから看護師に怒られてしまう羽目になった。