Flow of ask

ほぼ日常に関することや愚痴を中心に、趣味などを。更新は月一がいいほうです。

【ライアの東京征服】著:ライア




「ライア、大丈夫?」


草むらで横になる黄色い髪の少女に水色の髪の青年が尋ねる。
少女―ライアは返事をする前に起き上がり、青年―ルキアを睨むように見つめる。
山に囲まれたこの平凡さながらの村で異端児が生まれた。
昔から、村では異端児は間引きせよという言い伝えが残っていたのだ。この少年少女達もまた、異端児である。
彼女たちは村から忌み嫌われる存在になった。
特にライアは様々な異端を駆使する『天才』で、ルキアよりなお酷い扱いを受けていた。
先程まで異端を扱う練習をしていたため泥だらけになっていた。
ライアはパイロキネシスを中心とした空間移動、電気を操る能力。
光を操る能力、水を操る能力、身体能力向上、その他もろもろをを操れるのだ。
そんな『天才』とルキアの平凡異端児は村の中での生贄になっていた。


「泥だらけだね…ほら、帰ろうか」


そう言うとルキアは彼女に手を差し伸べる。
しかしライアは彼の差し伸べられた手を払い除けて歩き出してしまった。
彼女は同じ異端児であるルキアが嫌いだった。
彼はイジメにあっていたにも関わらず村人を憎んでいなかったのだ。
村人たちは彼女たちの異端を利用している。ライアはそれが憎たらしく嫌いだ。
人をまるで兵器のような扱いをする村人たちが。それを望んでいるルキアが。大嫌いだ。
異端児でも心はあるのだ。それを蔑ろにする大人たちがライアにとって嫌でしかなかった。

――――全部、燃えてしまえばいいのに
彼女は両親を早くに亡くし、親戚にたらい回しにされていた。
とある親戚に預けられたとき虐待が続いた。唯一の支えが隣に住んでいた6つ年上の青髪の少年だった。
隣に住んでいた少年もまた異端児であり彼女の苦痛を聞いてくれたのだ。
そんな中、彼女が家の中でそう言った刹那、パイロキネシスにより火災が発生した。
火災により親戚が死亡、ライアは無傷で救出された。
その際にも少年はライアの味方をしてくれたのだ。
別れ際、少年は彼女にあるものを渡してくれたのだ。ヘアゴム。緑色の、綺麗なヘアゴム。
それ以来、彼女はそのヘアゴムを必ず付けるようになった。


(僕らが平和に暮らせればいいのに)


今の自分の家に戻ったライアは部屋に戻り、鍵をかけて布団の中に入った。
彼女は一緒に暮らしているルキアと顔合わせるのさえ嫌いなため、部屋にこもりがちであった。
こうして一日が終わる。
このような生活が続いた。あの日が来るまでは。









それはいつもと同じような朝に思えた。
だが、朝にしては村が騒がしい。本来なら近寄らないのだが、見つからないように彼女は村の広場に向かった。
広場には軍人と思しき数名と村人全員がいた。
交渉かと思いきや、発砲。どうやら交渉ではないようだ。
すると軍人たちは水や電気で村人たちを襲い始めた。軍人たちは異端者のようだ。
このままでは自分も巻き込まれると思った彼女は逃げ出した。
それに気づいた軍人たちは彼女を追いかけた。
山の中にまで追いかけてくる軍人を見て、ライアは逃げるのを止めて軍人たちに向き合った。


「ふん、やっと諦めたか。面倒な子どもなのだよ」
「そう言ってやるなソル。俺らの目的は異端児の保護なんだから」


背の高い青年と声の高い青年がライアを見据える。
ライアは彼らの言ってることでなお警戒していた。彼らは異端児を保護しに来たという。
本当はそんなの建前でしかないのだ。どうせ「国のために力を使え」と言うのだろう、目に見えていた。
彼女にとってそんなのは真っ平なので青年たちを攻撃することにした。
彼らがなんの異端を持っているのかわからなかったため手始めに『影を操る能力』を使う。
ライアの影や木々の影を使って影の動物【砕牙】を生み出して青年たちを攻撃させる。
青年たちは彼女が異端持ちとは知らず反応が鈍ったが、背の高い青年が『冷気を操る能力』で砕牙の足を固めた。
固めたと同時にライアが『パイロキネシス』で氷を溶かし、砕牙にまとわせ神速を生み出した。
声の高い青年がいち早く『水を操る能力』を使ったのだが、それはライアの『冷気を操る能力』により無効化した。
砕牙の攻撃を食らった青年たちは体制を崩したがすぐに元通りになった。


「なんだお前は!?異端は、一人に最大二つまでじゃないのか!」


声の高い青年がライアに怒鳴る。
ライアは答えず、目から光線を出す。『光を操る能力』は敢え無く青年たちを攻撃した。
青年たちは驚きを隠せずにいた。
異端は純血ならば一つ、混血なら二つ持つのが当たり前。普通ならばありえない。
そこで彼らはある結論を出した。ライアが『天才』の異端児なら、ありえる。
考え込んでいる二人を彼女は隙ありと攻撃した。


「待つのだよ」


背の高い青年がライアに静止の声を出す。
流石に静止と言われれば静止してしまうのがライアである。
ライアは能力を発動させたまま、二人を見る。いや、睨む。


「お前が『天才の異端児』ならば聞いて欲しいのだよ」


背の高い青年は話しだした。
まず、声の高い青年はクレイグ、背の高い青年はソルと言う。
彼らは政府の軍人でありながら反政府軍の一員。
『天才の異端児』の配下に選ばれた異端者で今まで探し続けていたという。
政府の犬としていたのは『異端児の保護』を建前で広範囲を探せるから。
そう言い終わると二人の青年はライアの前で膝まづく。
流石にこんなことは一度もなかったので焦り始めるライア。


「…なんで、僕が…君たちの上司なの?僕の他にも『天才』は居るんじゃ…」
「いや。君だよ。その証拠に君のヘアゴム、それは俺らと同じ君の部下があげたものさ」


ヘアゴム。緑色の、綺麗なヘアゴム。
これはライアが何年も前に助けてもらった少年からもらったものだ。
いきなりで彼女は混乱するばかり。
するとライアの後ろから誰かがやってきた。
人の気配に気づいたライアが後ろを振り返るとそこにいたのはあの時の少年。
少年を見た瞬間、ライアから涙がこぼれ始めた。


「ほら、また会えただろ?」


少年―シドラはライアを抱きしめると、ライアも少年に縋り付くように泣き始めた。
クレイグとソルも二人に近づく。
その時だった、クレイグが急に立ち上がって水の結界を作る。
結界に氷の欠片が突き刺さる。その飛んできた先にはルキア達がいた。
ルキアは国の調査員だったらしく目には殺気が篭っている。
彼らを睨みつけるとライアは『パイロキネシス』を使い始める。
何をする気か理解したクレイグは『水を操る能力』を使うと水蒸気により、霧が辺りを包んだ。
調査員たちは何も見えなくなり挙動不審になっているのを確認すると、四人はその場を後にした。


「改めて、俺はクレイグ。ソルの幼馴染だ」
「俺はソル。よろしくなのだよ」
「もう知ってるだろうけど…シドラだよ」
「…僕は、ライア」


自己紹介を済まして、シドラを先頭に森の奥深くの家に着いた。
彼ら曰くここが隠れ家で異端により敵からは何も見えないタダの森に見えるという。


「ライアって女の子でしょ?声低いねー」
「止めるのだよクレイグ。すまないなライア」
「お前ら!ライアをいじめんなよ!」


今まで無表情だったライアの口元が緩んだ。
ライアの微笑みを見た三人は顔を真っ赤にしてしまう。
そうだと言わんばかりにシドラはライアに提案を申し込んだ。
今の世の中は異端者をいい兵器としか思っていない。
異端者たちを洗脳して兵器として使い、戦争にもだそうとしているのだ。
シドラを含むここにいる三人と他数名は反政府軍として動いている。
手始めに東京を征服して宣戦布告してやろう、と計画していた。


「ライア、一緒にやらないか?」
「…うん、やる。征服する」


――――東京征服してやろう




それから数週間が経った。
ライアは木の上で小鳥たちから情報を集めていた。
いつの間にかライアの周りは動物だらけになっていてとても微笑ましい光景だ。
すると家の屋上から窓が開いてクレイグが顔を出した。
その瞬間に動物たちが一斉にいなくなってしまった。


「あー…居なくなっちゃった…。どう?情報は」
「うん。だいぶ集まってるよ。でも…」
「でも?」
「この辺にも調査が入ってるみたい」


ライアは気からクレイグに向かって飛び移る。
突然のことに驚いたが、彼はうまく彼女を受け止める。
クレイグが彼女を抱えたまま降りていくとソルがフォークを落とし、シドラが唖然とした。
彼女が何故こうなったかを話すと彼らは安心したように胸をなで下ろす。
動物達からの情報を他二人に話すと二人はきむずかそうな顔をした。


「ここは見つからないようになっているのだよ、それは安心なのだが…」
「東京征服、すぐにはできないなー」


二人の会話をライアは黙って聞いていた。





――――東京征服

それは私たちの存在理由。


――――異端者の国

私たちが平和に暮らせるような。











「私達の東京征服、はじめようか」




合図が響いた。













異端を司る村の生贄
昔々の掟に刻まれた異端者の書
私を蔑む人の目は
あまりに悲しく酷すぎて逃げ出した

「どうしたの?」
尋ねる君も私も幼くて
手を繋いで生きていく
こんな世界は大嫌いだ


東京征服してみせよう
異端が住まえる国を目指し
反逆者たちを見返そう
私達は悪者なんかじゃない


異端は皆嫌われる
昔々の掟に記された哀しき書
私達を嘲る人の声は
罪のない心を破壊してしまう

発火に電磁波 光線水圧
毒物 治療に空間移動
善のために使う力
君のために使う力
野蛮なんかに使わせやしない


東京征服やってみせよう
僕らが安心して暮らせる国を
平和で平凡な世界に
なって欲しいと願おうか


名もない時代の異端者は
静かに長い眠りについたのだった