Flow of ask

ほぼ日常に関することや愚痴を中心に、趣味などを。更新は月一がいいほうです。

【灰色少年の哭泣】著:哀


灰色に変わったこの世界を君は愛していた。
灰色に変わったこの世界も君を愛していた。
灰色に変わったこの世界で僕は泣いていた。
灰色に変わったこの世界は僕を嫌っている。

だって僕は君を見殺しにしてしまったから。
僕は君を助けて上げられなかったから。
君は僕を嫌い、僕は君を嫌った。

ただ、それだけ。




僕は泣き虫で弱虫で、とても非力で虐めの対象になっていた。
両親がおらず、親戚は僕を捨てて僕は浮浪者となった。
当時は浮浪者なんて珍しいものじゃなかった。僕と同い年の子や僕よりも幼い子も浮浪者になって生きていた。
特に僕は根っからの弱虫だったから浮浪者の中でも孤立していた。
そんな僕を見て駆け寄ってきてくれたのはあの、黒髪がよく似合う女の子だった。
長い黒髪が風でなびいて、綺麗な青い瞳が綺麗な女の子。僕は灰色の髪で目隠ししていたから最初はわからなかったけど。


「ねえ、君の名前は?」
「……無い」
「じゃあ私がつけてあげる!んーとね……じゃあ**ってどう?」


僕はその日、彼女から名前をもらった。
彼女は幾日もやってきて僕にいろいろやってくれた。
字を教えてくれたり、勉強を教えてくれたり。しまいには服とか食べ物とかをくれるようになった。
優しくて可愛い女の子。彼女の名前は「ハイザキ」というらしい。
ハイザキは僕を学校へと連れて行ってくれた。
学校には僕みたいな浮浪者じゃなく、ちゃんと家族がいる幸せな子達が多かった。
だからその中で僕は浮いていた。
――見てよ、あの汚い格好!
――まるでねずみみたいだな
――ちょっとやめてよ!
――しょうがねえよ、浮浪者なんだから
――こっちくんな!
――汚い、気持ち悪い
なんて、僕を貶す言葉が勢ぞろいだった。


「**を馬鹿にしないで!何も知らないくせに!」


あの子はいつでも正義のヒーローだった。
僕を助けてくれる。僕のヒーローだった。
だけども、あの日、僕は彼女を見捨てた。






ハイザキは僕を殺そうとした。
どうやら学校の人たちに唆されて僕が悪いことしていると言われたんだ。
でも僕にとって彼女の行動はとても信じられない上に、絶望に叩き落とされてしまった。
正義のヒーローなんて嘘っぱち。
正義のヒーローなんてだだの幻想。
彼女は正義のヒーローなんかじゃない。彼女も普通の人間なんだ。

ハイザキは僕を殺してそのまま立ち去った。
でも僕は死なない。死ねない。
僕は特殊な体質なのだ。どうやら僕は不老不死のようで、刺された場所が痛むのに全く死なない。
明日どうやって学校に顔を出せばいいのだろう。
彼女は僕を殺したと思っているだろう。そしてそれをそそのかした奴らも。
――――どうして、僕は君を……――
途中で思うのをやめた。
もしかしたら彼女も気持ち悪いと思ってるのだろうし。
僕はそんなことを考えながら次の日、学校へと向かった。
案の定、皆から嫌な目で見られた。ハイザキも僕を見て驚愕していた。


「あ、貴方……死んだはずじゃ…!?」


やっぱり、死んだと思ってたんだ。
少し傷ついたけど、これで確信がついた。


「……死んでない、よ」


そう言うと彼女に童謡が走った。
それはクラスのみんなも同じ。
特に僕をいじめていた男子たちがざわざわとし始めた。
彼らが僕の妙な噂をでっち上げてハイザキに僕を殺させようとしたんだ。
そう思うとなにか、心が痛くなった。

帰り道、例の男の子達が僕の行く道を塞いで立っていた。
ハイザキから話を聞いていたようで彼らの手に持っているのは凶器の数々。
嗚呼――――この世界はもう腐っているんだな。
腐って腐ってもう腐りまくっている。
こんな世界、なくなってしまえばいい。みんないなくなればいい。
世界に色なんてなくていい。世界に時間なんてなくてもいい。こいつらなんて必要ない。他人なんて必要ない。
嫌い嫌い嫌い、他人なんて大嫌い。
世界が――――灰色になって、時も止まってしまえばいいのに。








そう願った刹那、大きな音がした。
すると世界が灰色に染まっていた。さっきまで色とりどりだった世界が。灰色に。
正確には、灰色が皆を飲み込んでいっているんだ。
灰色に飲み込まれた人たちは動かなくなり、しまいには背景みたいに同化してしまった。
僕も灰色に染まっていたが、僕は自由に動くことができた。そして歩き出すと、教室の外はまだ色があった。
廊下に出ると、足を置いた床から灰色が染まり、他の子達が悲鳴を上げて動かなくなる。
いじめてた男の子達が僕が近づくたびに許してくれと言ってきたが、どうでもよかった。


「哀、止めて」


彼女がいた。
男の子達をかばっている。
なんでかばってるの?なんで、その子達は僕をいじめたんだよ。
こうなって当然じゃないのか?ハイザキもそっちの味方なの?


――――「違う、味方じゃない。でも、こんなの間違ってるわ」
何が間違ってるのさ。やっぱり君もそいつらの仲間だったんだね。
僕を刺し殺そうとした時にうすうす感づいたけどさ。やっぱりそうだったんだ。
じゃあ、僕と出会ったのも偶然じゃなくて仕組まれてたんだ。僕を虐めの対象にさせるために助けたんでしょ?
……あ、その顔は図星?あはは、面白い。
気づいてないと思ってた?だって君、出会ったとき怪我してたじゃない。
でも今はそれが消えてる。ケガって言っても一箇所じゃない、何箇所にも。
ハイザキは彼らにいじめられていた。だから代わりを探していた。そこに僕がいた。
浮浪者の僕が虐めにあっても、例え死んだとしても浮浪者だから、親がいないからお咎めは無しって?

――――「ち、ちがっ」
何が違うのさ。
僕ね、親戚中にたらい回しにされてた時期があったから人の観察は得意なの。
君さいちいちいちいち僕を見るたびにいい獲物見つけたみたいな顔しててさ。
何?そんなに僕が弱そうに見えた?
そうだね、僕は弱いよ。少なくとも君らよりは強いんだけどね。
でもハイザキ、君だけ助けてあげようか?
その男の子たちを差し出してくれたら、君を灰色に染めさせない。

――――「あ、哀、くん」
彼女は僕に縋り付いてきた。
助けて、と。僕はそれを肯定と捉えて、世界を灰色に染め上げた。




それから数十年。
流石は人間、そう長くは生きられないようだ。
ハイザキはおばあさんになって今、布団で眠っている。
一方で僕は年を一切とっておらず、あの時のまま。14歳のまま。
ハイザキは最後にこう言った。「ごめんなさい」と。僕に対してなのか、それともあの男の子達に向けてか。
とうとう僕は一人ぼっちになった。

それから数百年。
僕の望んだ世界とはなんだっただろうか。
こんな灰色だけの世界なんて大嫌いだ。
でも彼女、名前を忘れた彼女はこういっていた。「哀の灰色の世界は好き」と。
だから今度は僕が灰色の世界を愛してあげる。




――「灰色に染まった世界は、只々、虚しいだろう」



僕は開いていた本を閉じた。












灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれて泣いてた
君に伝えたかった
「大好きだったよ」と


灰色の街並みは
とても哀しみで溢れていて
灰色の街灯さえ哭いている
そんな悲しい町並みを
君は笑顔で愛していました
だけれど君の愛は
枯れてしまったのでした


灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれ泣いていた
君の愛したこの世界が
君のために涙してくれてること
見えていますか?


いつの間にか幾年が過ぎ
もう何百年になりました
灰色の街並みはガラリと変わって
ふと空を見上げようとも
景色を眺めようとも
すべてが灰色になったこの世界は
動くことはないのです

一色しか知らないこの街は
赤色なんて知らないのでしょう
では僕が吐き出すこの色は
緑色(ナニイロ)というのでしょうか

一秒も進まないこの街は
空の色なんて知らないのでしょう
では僕が見たあの夕焼けは
一体何だったのでしょうか


灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれ泣いていた
君の愛した世界が
君ために涙してくれてること
知っていますか?


灰色に染まった世界で
僕は今日もひとりで生きている
君の愛した世界は
今日も明日も変わらない
何も変わりゃしない


灰色に染まった世界で
僕は番人さんと出会いました
灰色に染まった世界を
今度こそ愛してあげよう
「おはよう」と朝を伝えよう
「おやすみ」と夜を伝えよう




君の愛した世界で
これからも