Flow of ask

ほぼ日常に関することや愚痴を中心に、趣味などを。更新は月一がいいほうです。

【ドッペル少女の憂鬱】著:京子



電灯の明かりすら届かない小さな夜道を歩く影。

影は息を吸い込んでよ道の先に佇む旧校舎へ。
木造校舎が軋む。


ギッ。ギッ。ギッ。

ようやく目的地についた影は扉に手をかける。
しかしその手は途中でとどまり、宙を舞う。


ギッ、ギッ

誰かが来る。


ギッギッギッギッ

バキッ、バキッバキッ


誰かがいる。


ギッギッギッギッギッギッギッギッギ
ギッギッギッギッギッギッギッギッバキバキバキバキギッギッギッギッギッギッギッギッバキバキバキバキドンドンドンドンギッギッギッギッギッギッギッギッ


尋常ではない音。
走っている足音。
地団駄をする音。
何かを壊す音。


耳を劈く、痛い
痛くて影は、少年はしゃがんで耳をふさいだ。


――――こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい


後ろに誰かがいる。
真後ろ、ちょうど自分の背中のところに人の気配。

フフフッ、とソレは笑ってこう言った。



『貴方の顔、ちょうだい?』











 


「ふーん…ドッペルゲンガーに似てる様なお話ね」


足を組みながらリボンを靡かせ京子は読んでいた本に栞を差した。
話を終えた京子の友人は「でも最近有名な怪事件だよ?」と話の元の事件を話し出す。
友人はその事件を担当している警察の娘でもあり、情報に困っていないようだ。
京子はうんざりとした顔で友人の話に耳を傾ける。

すると部活終了の合図もといチャイムが学校中に鳴り響く。
友人はソレを聞くと慌ただしく帰り支度をし始める。
いち早く友人は帰りの挨拶を澄ますと玄関へと向かった。これも日常茶飯事。心配はない。
京子は友人の慌しさにため息をつきつつ、自分も帰宅路についた。
高校生と言えども、部活帰りなのだから道はもうすでに暗い。


「『貴方の顔、ちょうだい?』……ね」


ふと友人の言葉を思い出す。
『ドッペル少女』は必ず『貴方の顔、ちょうだい』と言うのだそうだ。
人は怖くなり、少女を押し飛ばすがその時には既に少女は押し飛ばしたその人に成り代わっている。
姿かたちが瓜二つ。まるで『ドッペルゲンガー』のように。
彼女はマンションについて鍵を取り出す。


京子は物心着いた時から一人ぼっちだった。
敵を作らず、それでいて自由を謳歌している。とても大人びている不思議な子であった。
そんな彼女に転機が訪れる。
自分の特殊な能力に目覚めたのだ。
相手に触れるまたは触れさせることにより自分の姿形を相手と瓜二つにできる。コピーできるのだ。
だが全く一緒に出来るのは容姿のみ。中身、性格は変えられない。
孤児院にいたときは孤児院の友達全員と孤児院に勤めていた大人たち全員の姿をコピーした。楽しかったのだ。
それから彼女が嫌われ者になるには時間は掛からなかった。


――「私は気持ち悪い」「私はおかしい」「私は、汚い」

――「なにがダメなの?みんなのようにはなれないの?」



幼い彼女にとっては一番の疑問だった。
自分の特殊な力は皆持っているのだと思っていたのだから。
周りが冷たい視線を向けてくる意味がわからなかった。
いつしか彼女はこう思い始めた。

(本当の私はなんなの?)

(私は、ただ私はみんなに認めてもらいたいだけなのに)

(誰か助けて)

(私を、誰でもいい。誰か助けてください)

手を伸ばしても誰も彼女を見ない。誰ひとり彼女を助けない。
苦痛に彼女は決心した。
『普通の女の子』と『ドッペル少女』。昼と夜とで違う姿になろうと。
そうすれば昼の自分、つまり『普通の女の子』は皆と平等に皆に振り向いてくれる。
京子のにらんだ通り昼の彼女は皆から愛された。
いろんな人たちとコミュニケーションをとっていた京子は初めましての人とでもすぐに仲良くなれた。
明るい性格。それでいて喜怒哀楽がしっかりとある美人。
男子からも女子からもモテた。その美貌からとある事務所からモデルのオファーが来るほど。

「京子ちゃん!お願いがあるの!」
高校生になったとき、中学校からの友人に頼まれオカルト研究部に入部した。
部員が少ないため活動はもっぱら自由行動。
自由に学校内で噂やオカルト関係について調べるだけの部である。
そして年月が過ぎ、今に至る。




「つっかれたー」


彼女はカバンを机の上に置くと制服のままベットに寝転がる。
ベットの上にあるクッションを握り締め、目を閉じる。

――――こんなところで何してる?
無愛想な女性の声が聞こえる。

――――なるほどな

――――私の家を使うか?しばらく帰ってこれないのでな
その女性は京子の命の恩人。


――――私か?私は……安杏(あんず)だ


「……安杏さん」


安杏はもう何年間も帰ってきていない。
仕事の都合だと前に聞かされた覚えがあるが、いつ聞かされたのかもう思い出せない。
京子はクッションを握り締めたまま、ベットの上で丸まった。



そのまま朝が来た。
今日は学校も仕事も休みなので一日中家にいる。
彼女はとりあえずそのまま寝てしまったので私服に着替え始める。
下着姿で鏡の前に立つ。
顔、首、肩、鎖骨、胸、二の腕、手首、手、お腹、お尻、太もも、ふくらはぎ…自分の体をまじまじと見つめる。
彼女は自分自身の姿が綺麗なのか、汚いのか自分で理解できないのだ。
だからせめて、太っていないかを確認するのが日課になっていた。
異常がないことがわかると彼女はようやく私服に着替えた。
そしてテレビのチャンネルをいじる。
ピッピッピッとチャンネルの切り替わる音が数回して、ようやくチャンネルの切り替わりが終わった。


「……うーん…情報収集でもしようかな」


そう呟くのと恭子がパソコンを起動するのは同時だった。
パスワードを凄まじい速さで入力し、ウィンドウが開く。
途端にパソコン画面一面に数字と文字の羅列。普通であればなにか異常かと思うだろうが京子は違う。
何故なら、この羅列は彼女が起こしたもの。
京子は『ドッペル少女』、『モデル』でありながら『ハッカー』でもある。
ハッカー』の才能を生かし『情報屋』としても社会に貢献している。もちろん、政府から承諾を受けて。

そして今日も、彼女の憂鬱な日々が幕を開けた。














ドッペル少女
次のお顔は際どいあの人
ドッペル少女
次の姿は哀しいあの人


「私は普通になりたいの」なんて言ってさ
「私は普通の女の子なの」なんて言ってさ
結局いつものあの言葉
「貴方の顔をちょうだいな」

「どうすれば愛してくれる?」
「どうすれば認めてくれる?」
走って走ってたどり着く
ドッペルゲンガー少女は何を見た


ドッペル少女は今日も行く
素敵な姿を手に入れるため
ドッペル少女は笑ってる
素敵な姿で歩いてる

ドッペル少女はにこやかに
街の中に立っている
ドッペル少女は泣いている
所詮はただの偽物だ


今日も今日とて求め歩く
素敵な姿を手に入れるため
「貴方の顔をちょうだいな」
こんなことはやめられない
誰か助けてよ…!

傷ついた心(汚い自分)
貶された心(私は誰?)
いつもいつも泥だらけ
父さん母さん私を捨てて(死んじゃった)
助けてくれる人はもういない


ドッペル少女は今日も行く
自分を助けてくれる人を探して
ドッペル少女は今日も行く
奇怪な噂を掻き立てて

ドッペル少女は悲しげに
夕焼け小焼けを眺めてる
ドッペル少女は屋上で
静かに静かに飛び降りた