Flow of ask

ほぼ日常に関することや愚痴を中心に、趣味などを。更新は月一がいいほうです。

夏休みも中盤

お久しぶりです、一か月弱放置していてすみませんでした。
この間に色々ありました。色々と言っても些細なことばかりですが…
労働週間が終って、指がパックリ割れたのも今からしてみれば懐かしいものです。
夏休みが終わるとすぐに初日から早速作業があったり、11月には学校祭があったり、二回目の労働週間があったりと何かと忙しいです。
それでも元気に楽しく過ごしております。

家も安定しているかと言われれば安定していません。
いざこざと言うか…荒れていると言っても過言ではないですね。
私自身、精神的な面が弱いものですから毎回ソレにぶつかると苦しくなって吐き気やら体調不良を訴えてしまいます。
それでも、やっぱり学校に行っても楽しいですしそのことは忘れれるのでいいと思います。
こんな感じで書いておりますが、私は文が安定しません。
誤字が多かったり、意味不明なことを書いています。大目に見てくださるとうれしいです。




29日は弟の誕生日でした。
弟の誕生日を祝うため、私が住んでいる都道府県の都心部に行きました。
ものすごく暑かったです、はい。

最初に映画を見に行くことになっていたので映画館へ。
久々の映画館に私は懐かしさとウキウキ感に浸っていました。

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その映画館の一部の床は綺麗に七色に光っていました。
写真じゃすごくわかりづらいのですが…

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その床を遠くからとってみました。
この時たまたまライトが落ちていたので光っているかどうか判断しずらいです…;;;
タイミング悪い…;;;

夏休みと言うこともあって家族連れが多かったです。
というか私の見た映画自体が子供向けの奴だから…


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昼飯は牛角にて。
あまりにも量が多くて大変でした(弟も母も小食)

あとは街の中をぶらぶらと…
その日の戦利品がこちら
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見た映画と、帰りにアニメイト似て無事購入できた実況者の本。

実況者の本は好きな実況者様が載っているとツイッターからの情報で買いました。
勿論帰ってからすぐに見ました。最高でしたスヤァ…

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ネタバレになるので文字は移しません×
最近知りハマったえんもち屋さん!楽しく見せていただきました!


あとまあ、バッティングセンター言って軽い肉離れになったりとかいろいろありました本当に。
夏休みは後わずかですが楽しみたいと思います。


あ…宿題……



次は落書きです。

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労働週間終了

憎かった労働週間が終わりました。一時間目から六時間目までずっと立ちっぱなしでした。
詳しい説明はまあ省きますが、一週間続きました。
そのせいでか私の指は傷だらけになってしまってます。パックリ割れたぜ(T_T)



久々のブログです。
今まで何してた、と言われるとまあ…リアルが忙しかったとしか言いようがないのですが結構忙しかったです。
ツイッターには毎日のように出没しているのですがブログを書く気になれないというね。
ここ数か月の間に私の携帯でニコニコが見れるようになりまして、いろんな方々の実況動画を閲覧していてチームTAKOSさんの実況動画とP-Pさん、つわはすさん、レトルトさん、キヨさんのコラボ実況動画が好きすぎて何度も見ています。
そして友達もろともコジマさんファンに(若干クラスタ)なりました。もうかっこいいです…!
これからも無理をなさらず頑張ってほしいと思っています。


ではまた今度

【ライアの東京征服】著:ライア




「ライア、大丈夫?」


草むらで横になる黄色い髪の少女に水色の髪の青年が尋ねる。
少女―ライアは返事をする前に起き上がり、青年―ルキアを睨むように見つめる。
山に囲まれたこの平凡さながらの村で異端児が生まれた。
昔から、村では異端児は間引きせよという言い伝えが残っていたのだ。この少年少女達もまた、異端児である。
彼女たちは村から忌み嫌われる存在になった。
特にライアは様々な異端を駆使する『天才』で、ルキアよりなお酷い扱いを受けていた。
先程まで異端を扱う練習をしていたため泥だらけになっていた。
ライアはパイロキネシスを中心とした空間移動、電気を操る能力。
光を操る能力、水を操る能力、身体能力向上、その他もろもろをを操れるのだ。
そんな『天才』とルキアの平凡異端児は村の中での生贄になっていた。


「泥だらけだね…ほら、帰ろうか」


そう言うとルキアは彼女に手を差し伸べる。
しかしライアは彼の差し伸べられた手を払い除けて歩き出してしまった。
彼女は同じ異端児であるルキアが嫌いだった。
彼はイジメにあっていたにも関わらず村人を憎んでいなかったのだ。
村人たちは彼女たちの異端を利用している。ライアはそれが憎たらしく嫌いだ。
人をまるで兵器のような扱いをする村人たちが。それを望んでいるルキアが。大嫌いだ。
異端児でも心はあるのだ。それを蔑ろにする大人たちがライアにとって嫌でしかなかった。

――――全部、燃えてしまえばいいのに
彼女は両親を早くに亡くし、親戚にたらい回しにされていた。
とある親戚に預けられたとき虐待が続いた。唯一の支えが隣に住んでいた6つ年上の青髪の少年だった。
隣に住んでいた少年もまた異端児であり彼女の苦痛を聞いてくれたのだ。
そんな中、彼女が家の中でそう言った刹那、パイロキネシスにより火災が発生した。
火災により親戚が死亡、ライアは無傷で救出された。
その際にも少年はライアの味方をしてくれたのだ。
別れ際、少年は彼女にあるものを渡してくれたのだ。ヘアゴム。緑色の、綺麗なヘアゴム。
それ以来、彼女はそのヘアゴムを必ず付けるようになった。


(僕らが平和に暮らせればいいのに)


今の自分の家に戻ったライアは部屋に戻り、鍵をかけて布団の中に入った。
彼女は一緒に暮らしているルキアと顔合わせるのさえ嫌いなため、部屋にこもりがちであった。
こうして一日が終わる。
このような生活が続いた。あの日が来るまでは。









それはいつもと同じような朝に思えた。
だが、朝にしては村が騒がしい。本来なら近寄らないのだが、見つからないように彼女は村の広場に向かった。
広場には軍人と思しき数名と村人全員がいた。
交渉かと思いきや、発砲。どうやら交渉ではないようだ。
すると軍人たちは水や電気で村人たちを襲い始めた。軍人たちは異端者のようだ。
このままでは自分も巻き込まれると思った彼女は逃げ出した。
それに気づいた軍人たちは彼女を追いかけた。
山の中にまで追いかけてくる軍人を見て、ライアは逃げるのを止めて軍人たちに向き合った。


「ふん、やっと諦めたか。面倒な子どもなのだよ」
「そう言ってやるなソル。俺らの目的は異端児の保護なんだから」


背の高い青年と声の高い青年がライアを見据える。
ライアは彼らの言ってることでなお警戒していた。彼らは異端児を保護しに来たという。
本当はそんなの建前でしかないのだ。どうせ「国のために力を使え」と言うのだろう、目に見えていた。
彼女にとってそんなのは真っ平なので青年たちを攻撃することにした。
彼らがなんの異端を持っているのかわからなかったため手始めに『影を操る能力』を使う。
ライアの影や木々の影を使って影の動物【砕牙】を生み出して青年たちを攻撃させる。
青年たちは彼女が異端持ちとは知らず反応が鈍ったが、背の高い青年が『冷気を操る能力』で砕牙の足を固めた。
固めたと同時にライアが『パイロキネシス』で氷を溶かし、砕牙にまとわせ神速を生み出した。
声の高い青年がいち早く『水を操る能力』を使ったのだが、それはライアの『冷気を操る能力』により無効化した。
砕牙の攻撃を食らった青年たちは体制を崩したがすぐに元通りになった。


「なんだお前は!?異端は、一人に最大二つまでじゃないのか!」


声の高い青年がライアに怒鳴る。
ライアは答えず、目から光線を出す。『光を操る能力』は敢え無く青年たちを攻撃した。
青年たちは驚きを隠せずにいた。
異端は純血ならば一つ、混血なら二つ持つのが当たり前。普通ならばありえない。
そこで彼らはある結論を出した。ライアが『天才』の異端児なら、ありえる。
考え込んでいる二人を彼女は隙ありと攻撃した。


「待つのだよ」


背の高い青年がライアに静止の声を出す。
流石に静止と言われれば静止してしまうのがライアである。
ライアは能力を発動させたまま、二人を見る。いや、睨む。


「お前が『天才の異端児』ならば聞いて欲しいのだよ」


背の高い青年は話しだした。
まず、声の高い青年はクレイグ、背の高い青年はソルと言う。
彼らは政府の軍人でありながら反政府軍の一員。
『天才の異端児』の配下に選ばれた異端者で今まで探し続けていたという。
政府の犬としていたのは『異端児の保護』を建前で広範囲を探せるから。
そう言い終わると二人の青年はライアの前で膝まづく。
流石にこんなことは一度もなかったので焦り始めるライア。


「…なんで、僕が…君たちの上司なの?僕の他にも『天才』は居るんじゃ…」
「いや。君だよ。その証拠に君のヘアゴム、それは俺らと同じ君の部下があげたものさ」


ヘアゴム。緑色の、綺麗なヘアゴム。
これはライアが何年も前に助けてもらった少年からもらったものだ。
いきなりで彼女は混乱するばかり。
するとライアの後ろから誰かがやってきた。
人の気配に気づいたライアが後ろを振り返るとそこにいたのはあの時の少年。
少年を見た瞬間、ライアから涙がこぼれ始めた。


「ほら、また会えただろ?」


少年―シドラはライアを抱きしめると、ライアも少年に縋り付くように泣き始めた。
クレイグとソルも二人に近づく。
その時だった、クレイグが急に立ち上がって水の結界を作る。
結界に氷の欠片が突き刺さる。その飛んできた先にはルキア達がいた。
ルキアは国の調査員だったらしく目には殺気が篭っている。
彼らを睨みつけるとライアは『パイロキネシス』を使い始める。
何をする気か理解したクレイグは『水を操る能力』を使うと水蒸気により、霧が辺りを包んだ。
調査員たちは何も見えなくなり挙動不審になっているのを確認すると、四人はその場を後にした。


「改めて、俺はクレイグ。ソルの幼馴染だ」
「俺はソル。よろしくなのだよ」
「もう知ってるだろうけど…シドラだよ」
「…僕は、ライア」


自己紹介を済まして、シドラを先頭に森の奥深くの家に着いた。
彼ら曰くここが隠れ家で異端により敵からは何も見えないタダの森に見えるという。


「ライアって女の子でしょ?声低いねー」
「止めるのだよクレイグ。すまないなライア」
「お前ら!ライアをいじめんなよ!」


今まで無表情だったライアの口元が緩んだ。
ライアの微笑みを見た三人は顔を真っ赤にしてしまう。
そうだと言わんばかりにシドラはライアに提案を申し込んだ。
今の世の中は異端者をいい兵器としか思っていない。
異端者たちを洗脳して兵器として使い、戦争にもだそうとしているのだ。
シドラを含むここにいる三人と他数名は反政府軍として動いている。
手始めに東京を征服して宣戦布告してやろう、と計画していた。


「ライア、一緒にやらないか?」
「…うん、やる。征服する」


――――東京征服してやろう




それから数週間が経った。
ライアは木の上で小鳥たちから情報を集めていた。
いつの間にかライアの周りは動物だらけになっていてとても微笑ましい光景だ。
すると家の屋上から窓が開いてクレイグが顔を出した。
その瞬間に動物たちが一斉にいなくなってしまった。


「あー…居なくなっちゃった…。どう?情報は」
「うん。だいぶ集まってるよ。でも…」
「でも?」
「この辺にも調査が入ってるみたい」


ライアは気からクレイグに向かって飛び移る。
突然のことに驚いたが、彼はうまく彼女を受け止める。
クレイグが彼女を抱えたまま降りていくとソルがフォークを落とし、シドラが唖然とした。
彼女が何故こうなったかを話すと彼らは安心したように胸をなで下ろす。
動物達からの情報を他二人に話すと二人はきむずかそうな顔をした。


「ここは見つからないようになっているのだよ、それは安心なのだが…」
「東京征服、すぐにはできないなー」


二人の会話をライアは黙って聞いていた。





――――東京征服

それは私たちの存在理由。


――――異端者の国

私たちが平和に暮らせるような。











「私達の東京征服、はじめようか」




合図が響いた。













異端を司る村の生贄
昔々の掟に刻まれた異端者の書
私を蔑む人の目は
あまりに悲しく酷すぎて逃げ出した

「どうしたの?」
尋ねる君も私も幼くて
手を繋いで生きていく
こんな世界は大嫌いだ


東京征服してみせよう
異端が住まえる国を目指し
反逆者たちを見返そう
私達は悪者なんかじゃない


異端は皆嫌われる
昔々の掟に記された哀しき書
私達を嘲る人の声は
罪のない心を破壊してしまう

発火に電磁波 光線水圧
毒物 治療に空間移動
善のために使う力
君のために使う力
野蛮なんかに使わせやしない


東京征服やってみせよう
僕らが安心して暮らせる国を
平和で平凡な世界に
なって欲しいと願おうか


名もない時代の異端者は
静かに長い眠りについたのだった

【流離いの教師】著:禄十郎



煙管を蒸した青年はタッタッタと街中を歩いていく。
誰もが振り向くその異様な姿は明治を思い出すような服装。
目つきの悪さ、眼帯を含め皆が青年を避けるように道を開けその間を彼は風のように早々と歩いていく。
煙管からは禍々しい煙が出ている。
その煙を吸って朦朧とする通行人も出始め、その場は大騒ぎとなった。
しかしその頃には既に青年の姿はなく、度々青年の姿が目撃されるが気がつけばすぐにいなくなる。
そうして都市伝説、『煙の男』となったのだ。
そんな中、田舎に近い村で唯一の教師がいた。
旅人で教師という肩書きを持つ男は名を『禄十郎』と名乗り村に居る子どもに勉強を教えていた。
村の大人たちは最初は禄十郎を村に招くのが正直気が引けたのだ。
何故なら、禄十郎の容姿が都市伝説として騒がれている煙の男と酷似している。
だが招いてからは大人たちは心底安心していた。
禄十郎は無愛想ではあるがちゃんと勉強を教えている、まともな教師だからだ。
――「ロク先生!これ見てください」
――「ロク先生来てください!」
――「ロク先生!」
子どもたちも禄十郎を慕っていたが、村の長は禄十郎のある言葉に疑問を抱いていた。


「小生の教え子は、最初で最後しかいない」


禄十郎は流離いながら様々な場所で教師をしている。
なので教え子は数多くいるはずだが、彼は教え子は最初で最後しかいないと言った。
つまり教え子はたった一人しかいないということだ。
そしてとある日、村で騒動が起きた。
子どもたちが麻薬中毒にかかり、医療機関に運ばれたのだ。
皆はすぐに禄十郎に目をつけたが時すでに遅し。禄十郎は村にはいなかった。
世間では麻薬教師として騒がれ始めた。
しかし、時間が経つにつれて禄十郎の噂はなくなっていった。
禄十郎の出生を知る者はいない。
何故なら彼はこの時代の人ではないのだから。
禄十郎は街の中を歩いていた。彼を見るものはいない。
キセルから出る禍々しい煙にさえも誰一人振り向かない。


(恐ろしい国だな、日ノ本は)


禄十郎は煙を吐き、その場を立ち去った。
――――『怪物の子』
近所やすれ違う度に言われた台詞。正直もう聞き飽きていた。



江戸時代が終わりを告げる頃、彼は生まれた。
茶髪にマゼンタ色の瞳の少年。仲のいい夫婦は少年に禄十郎と名付けた。
彼は変わっていた。
同い年とも年上とも年下ともつるまず、一人でいることが多かった。
運動より読書が好き。
大勢より一人が好き。
世間より瓦版が好き。
本当に彼は変わっていた。
だが成績は良く、物知りであったため人気の的であった。
彼が怪物の子と呼ばれる原因がある事件がきっかけだった。
その日もいつも通り。何も変わらない時間が流れていたのだ。そんな学び舎で異変が起こった。
【毒ガス騒動】である。
学び舎の下には毒素が溜まっており、何らかの原因が下で排出したのだ。
学び舎にいた生徒や教師は禄十郎以外死んでしまった。
毒ガスは学び舎に充満していたにも関わらず、禄十郎はただ一人平然として生きていた。
大人たちは愚か、両親ですら彼を蔑んだ。
禄十郎自身、蔑まれるのはどうでもいいことだった。
ただ、実の両親が自分の生を喜ぶどころか自分を避け始めたのことが悲しかった。
それ以来なお禄十郎は人を嫌った。


そんな中、江戸時代は姿を消し明治に入ると町は次第に変わっていった。
禄十郎以外はほとんど和風から洋風へと変わり始める。
彼は勉強に励み教師となった。
当時、戦争があるたびに民を戦争に駆り出されるが、教師のみ戦場に赴かなくていいのだ。
それを知った両親は禄十郎に抗議しに来た。
だがそれは禄十郎の一言により、あっという間に追い返された。


「小生を捨てたのはお前らだ。何しに来た。帰れ、愚れ者」


既に禄十郎の中では両親ですら他人だった。
綺麗なマゼンタ色の瞳も、もう虚ろで黒く染まっていた。
禄十郎は煙管を使うことが多くなった。
禄十郎は薬を呑むことが多くなった。
禄十郎は故郷を捨て旅をするようになった。
戦争にも目も呉れず。いつしか禄十郎は人間ではなくなっていた。




過去を思い出し、禄十郎は目を閉じた。



「ロク先生」


閉じていた目を開き、禄十郎は大きな欠伸をした。
それを見て禄十郎を呼んだ学ランの少年が苦笑いを浮かべていた。
少年こそ、彼が言う最初で最後の教え子である。
戦争が続く時代に生まれた少年は一匹狼である禄十郎に懐いていた。


「先生。僕様は間違っていたのでしょうか」


少年は顔を隠すように紙をつけている。
禄十郎はすぐに答えられなかった。
少年の家庭は知ってはいたが、正直禄十郎は感情がわからなかった。
家族の問題などわかるはずがない。
だが声色が震えている少年に、禄十郎は「自分を信じろ」としか言えなかった。
少年はその答えを聞いて安堵した。
その様子を禄十郎は他人事のように見ていた。





目を開けるとそこは目の前には防空壕
見覚えのある防空壕がある。いつの間にここまで来たのだろうか。
禄十郎は考えることを放棄し、防空壕に入っていく。
やけにただっ広い防空壕の奥に近づくにつれ、だんだん錆びた鉄パイプが目立つようになっていく。
そして水の音。何かが溺れているような――――
禄十郎は走った。
奥に行くと、扉が開いておりそこから水の音と誰かの声がする。


「……あのバカ野郎」


彼はそうつぶやくと真っ暗闇の扉に入っていった。
暗闇を抜けるとどこかの沼地についた。
沼からはぶくぶくと泡が上がっており、そのそばには少年がいた。
禄十郎はその少年に見覚えがあった。
彼の教え子はさきほど潜った扉の番人になり様々な世界へと行けるようになっている。
その世界の一つ、灰色の世界の少年だ。


「オイ、灰色」


少年は目隠しをしているが、声を聞いて禄十郎を見る。
彼は沼を指差して「衛さんが、」と呟く。
それを聞いて禄十郎は腕をまくり、沼に手を乗っ込んだ。
そして彼は何かをつかみ、力いっぱい引き上げるとそこには番人の教え子。
幸い息はしているようで教え子は咳き込んだ。


「俺の許可無く死のうとしてんじゃねえぞ」


教え子は相変わらずですね、と悲しそうに笑っていた。
それ以来、禄十郎はちょくちょく教え子の様子を見に行くようになった。
自分でも何故こうしているのかがわからなかった。
初めて、他人を心配する自分がいる。
初めて、他人の死を怖がる自分がいる。
初めて、他人に興味を持った自分がいる。
そのことに戸惑いを隠せないがどこか納得する自分もいた。



――――怪物の子にも心がありました。



昔々、あるところに『怪物の子』と呼ばれた少年が居りました。
少年は自分なりに平凡に暮らしていました。
両親ですら少年を毛嫌い、蔑んでいました。
少年は他人が嫌いになりました。自分を守りたかったのです。
大人になって少年は教師になりました。
戦争が始まっていたので、少年は教師になったのです。
両親はそれを知ったとたん少年に教師にはなるなと言いだしたのです。
少年は両親の言葉を無視したまま、縁を切ったのです。
少年は青年となりました。
青年は麻薬に溺れてしまいます。
愛と金と薬さえあれば生きていけると世界が決めた日に、
青年は最初で最後の教え子と出会いました。
青年は教え子に試練を与えました。
青年は世界に絶望しました。世界は終演を迎えようとします。
青年は教え子から心を教わりました。

青年は、怪物の子です。
だけども、けして、心は疑わないで。




青年は今でも泣いているのです。




悲しんでいるのです。





――――怪物の子の涙を疑わないで














愛と金と薬が在れば
生きていけるなんて
言う依存者は数多く
だからなんだと問うてみれば
人は生きる意味を知るだろう


愛は盲目鑪踏めば
安らかな心地よきかな
金は欲望人殺めば
そなたはただの罪人さ
薬は錯乱一つ呑ば
あらあらリン酸寄ってけや

嗚呼
人は皆儚い精神をお持ちで
嗚呼
彼はよいよい泣く子はいねが


愛と金と薬が在れば
人は目が眩むだろう
馬鹿な人種さ呆れ顔
この世も既に終わったな


恋は盲目四隅を見りゃ
泣くあの子は笑ってるさ
生は延命行きはよいよい
還りは怖いぜお嬢ちゃん
核は煩悩それ見ろリンリン
人などすぐに息絶える

嗚呼
泣かないどくれ私の生徒
嗚呼
扉の門番任されて

嗚呼
共に参ろう腐る世を
嗚呼
私もとうに死んだのかな


愛と金と薬が在れば
この世の憂さを晴らせませう
理不尽すぎるこの世から
逃げ惑う術を与えませう

愛と金と薬が在れば
ほれ見ろこの世は終演だ!

【扉ヲ衛リシ番人ノ泪】著:衛





――――もう何百年とこの扉の前にいる。



少年に名前はない。ただ、『扉を護りし者』だから「衛」と灰色少年に言われた記憶が新しい。
その子は尋ねた。「扉から離れられないの?」と。
少年は答えた。「扉を護らなければいけない」と。
このやりとりも新しい。何回も繰り返されたやりとりなのだから。
彼にも見えない彼らにも見えない。
少年の周りには爛れた蠢くパイプ管やら瞬きをする目玉のオブジェ。
ギロチンには血の錆がこびり付いている。
パクパク動く大きな牙が見える口も、少年の指示で動いている。


こんな一見囚われのお姫様、みたいなポジションを何百年も続けている。
彼が門番に選ばれたのは人間の姿の化物だから。
不老不死…というのもあってここの見張りを頼まれたのだ。
それからこんな幻覚のような物が見え始めてしまいにはもう何百年も経っていた。
この扉は絶対開けてはいけないもの。
以前、この扉を開けたら黒い塊がたくさん溢れ出たことがあった。
世界が黒くなった気がした。空も、人も、何もかもが。
世界が黒くなった刹那、爛れたパイプが少年の指示ではなくパイプ管の意思でなのか世界の黒いモノを消した。
世界は何事もなく、再び時を刻み始めていた。



――――僕様は、前までは人間だった。


少年(以下衛)が生まれたのはもう何百年も前の10月頃だった。
当時は戦争なんて当たり前。戦争で罪のない少年達庶民が死んでいく理不尽な世界だった。
上の人達なんとも愚かで劣悪な人間もどきなのだろうか。
衛は当時は学生。そして多くの兄弟達に囲まれて、家族の幸せを送っていた。
彼は顔が嫌いだった。
兄弟達は父親似、衛は母親似。彼の父親は母親似の衛をいじめ抜いた。
衛の母親は彼を生んだ時に体を悪くして、5つ下の妹を生んでから寝たきりになってしまったのだ。
それを父親はよく思っていないのだろう。ストレスを母親にぶつけられない分を衛にぶつけていた。
それから、衛は顔を紙で隠した。お面がわりにと兄からアドバイスを受けて。
だがそんな日々はすぐに終わりを告げた。

あの、醜い戦争が始まったのだ。
彼の父も彼の兄も戦争に駆り出され、唯一家族の支えになった姉と彼は死ぬ物狂いで働いた。
防空壕の確保、食料の確保。
その時だった。彼が、防空壕の奥深くでとある扉を見つけた。
当時では考えられないような鉄でできた扉。


「……こんなもの、あったか…?」


彼がその扉に触れた刹那、扉が脈を打った。
無機物が脈を打つなど普通ならば考えない。衛も驚いて後ずさりする。
すると扉の周辺の壁からパイプ管が伸びてきた。
そのパイプ管には目玉や口のオブジェがあり、すぐさま彼を囲んだ。
まもなく、彼の国は戦争に敗れることになった。






僕様はいろいろな世界を見てきた。



ドッペル少女の世界。全人類の顔を求める女の子。


灰色少年の世界。哀しみに満ちた世界を灰色変えた男の子。


ALICEの世界。不思議の国に迷い込んだ女の子。


少将の世界。世界に呆れた軍の青年。


ピアニストの世界。全人類の魂を食べる女性。


そして先生の世界。流離いながらの教師。



皆それぞれの世界で生きている。それが交わって僕様は生まれた。
爛れたパイプ管達がざわめいている。


――〈マモル、マモル〉
――〈君ハマモル。扉ヲ衛リシ番人〉
――〈泣イテルノ、辛イノ〉
――〈ワタシタチハ貴方ノ味方〉
「もう黙って」

――〈可愛イ可愛イマモル〉
――〈ワタシタチノ可愛イマモル〉
「聞きたくないです」



声を聞かないように目を閉じた。







夢を見た。
錆び付いた線路沿い。
古びたお寺からは埋葬連鎖、埋葬の煙の道標。
そう、それはあの時だ。あの、戦争が終わったあとの世界の風景。
人の焼ける匂い、人の死体死体したいシタイ…まさに地獄絵図だった。
唯一無事だったお寺が埋葬をしていた。住職は僕様を見るなり色々と話してくれた。
僕様を知っていて、僕様の姿を見て何をしているのかを、見透かしていた。
現実逃避したくても目の前のそれが真実なんだ。

――――真実ナンテ隠セルヨ

――――君ガ見テイル、真実ハ

――――偽物カモシレナイヨ?

姿を隠す司会者が言う。
その声で気づいたんだ。何もかもが、全部全部、まがい物なんだって。
だけども僕様は求めていた。
求めていたものは、ものはなんだっけ?
人物?空想?妄想?
なんだろう、思い出せない。

僕様の名前は?

僕様は誰?

僕様は何をしていた?

僕様はどうして生きている?




――オマエハドウシテイキテイル?



夢を見た。
学ランを着た僕様。きっと今の人達にとったら珍しいだろう。
帽子をかぶってお面がわりに紙で顔を隠して、傍から見れば不審者のような僕の姿。
鏡は嫌い。見たくない自分自身の裏まで見えてしまうのだから。

夢を見た。
とても懐かしい夢を見たんだ。
僕様がまだ、ちゃんとした人間だったころの夢。
先生は僕様だけきつく指導してくれた。先生は優しい人だった。
先生は僕様の憧れの人。でも先生もきっとあの戦争で死んでしまったんだろう。
戦争なんて醜い、醜すぎて吐き気がする。

夢を見た。
哀くんが死ぬ夢を。
可笑しいな、あの声は哀は不老不死だって言ってたのに。
でもすごく恐ろしかった。
せっかく僕様の友達になってくれる人が現れたのに。また一人になるところだ。
人が死ぬのは嫌だ、今も昔も。

夢を見た。
僕様は水の中にいた。
苦しい、夢じゃ――――ない。
ゴポゴポと僕様の口から空気が逃げていく。キラキラ光る水面があんな遠くにある。
相変わらず、僕様の周りには爛れたパイプ管らが僕を離さないように腕を縛っている。
苦しい、息ができない。
顔につけた紙が溶けていく。助けて。
誰か、僕を見つけて。


……――――嗚呼、思い出した。そうだ、僕は。
誰かに助けて欲しかったんだ。
辛い辛い、牢獄から。牢獄の扉の前で、僕はずっと。
負の感情と共に数百年間生きてきた。爛れたパイプ管たちは元は僕様の兄弟たち。
戦争で死んでしまった僕様の大切な家族だ。
そうだね、一緒に沈もう。


水の底まで……永遠に……――――



すると、水面から何かが伸びてきた。
それは人の腕。
その腕は僕様の手を握ると、ぐいっと力任せに引っ張った。
勢いが強く、僕様は水面にあげられた。
咳き込みながら何事かと把握する前に誰かに抱きつかれた。哀くんだ。
そしてすぐさま頭上に響く痛み。
哀くんに抱きつかれながら上を見ると、逆光でわかりにくかったが、あの人がいた。
キセルを持ち、趣味の悪い眼帯をしたあの人が。


「俺の許可無く死のうとしてんじゃねえぞ」


嗚呼、貴方は相変わらずですね。
























――――禄十郎先生。









扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヨ
機械に包まれた顔隠し
扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヨ
さあ光の先へ歩きだそう



爛れたパイプ管潜り抜けて
目玉のオブジェこちらへよいよい
ギラギラギロチン血錆びてる
延びてく口元噛み砕け
いつの日か
人類滅亡 灰色世界
暗雲低迷 四捨五入



扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヨ
電脳世界で何を知るのか
爛れた世界の真ん中で
衛リシ番人は立ち尽くす



錆びた線路沿い
軋む古寺
埋葬連鎖の道標
現実逃避の眩む司会者
全部が全部紛い物

求めたものは
あるはずのない空虚な架空な
人類空想妄想連想埋葬郵送螺旋の魔
仏説摩訶般若波羅美多心行の解
手を伸ばした場所はただの空欄
目を凝らした先にはただの空間
声を出した相手はただの死体

最後に戦ってあげようか
最後に守ってあげようか
僕様の声がする
助けて欲しいの
ああああああああああ...



扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヨ
扉の前で佇むそれだけ
衛るモノを守るだけ
ただの人形になり果てようとも



扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヨ
扉ヲ衛リシ番人ノ泪ハ
扉ヲ衛リシ番人ノ泪ガ
扉ヲ衛リシ番人ノ泪ヲ
扉ヲ衛リシ番人ハ




ソコニイル

【灰色少年の哭泣】著:哀


灰色に変わったこの世界を君は愛していた。
灰色に変わったこの世界も君を愛していた。
灰色に変わったこの世界で僕は泣いていた。
灰色に変わったこの世界は僕を嫌っている。

だって僕は君を見殺しにしてしまったから。
僕は君を助けて上げられなかったから。
君は僕を嫌い、僕は君を嫌った。

ただ、それだけ。




僕は泣き虫で弱虫で、とても非力で虐めの対象になっていた。
両親がおらず、親戚は僕を捨てて僕は浮浪者となった。
当時は浮浪者なんて珍しいものじゃなかった。僕と同い年の子や僕よりも幼い子も浮浪者になって生きていた。
特に僕は根っからの弱虫だったから浮浪者の中でも孤立していた。
そんな僕を見て駆け寄ってきてくれたのはあの、黒髪がよく似合う女の子だった。
長い黒髪が風でなびいて、綺麗な青い瞳が綺麗な女の子。僕は灰色の髪で目隠ししていたから最初はわからなかったけど。


「ねえ、君の名前は?」
「……無い」
「じゃあ私がつけてあげる!んーとね……じゃあ**ってどう?」


僕はその日、彼女から名前をもらった。
彼女は幾日もやってきて僕にいろいろやってくれた。
字を教えてくれたり、勉強を教えてくれたり。しまいには服とか食べ物とかをくれるようになった。
優しくて可愛い女の子。彼女の名前は「ハイザキ」というらしい。
ハイザキは僕を学校へと連れて行ってくれた。
学校には僕みたいな浮浪者じゃなく、ちゃんと家族がいる幸せな子達が多かった。
だからその中で僕は浮いていた。
――見てよ、あの汚い格好!
――まるでねずみみたいだな
――ちょっとやめてよ!
――しょうがねえよ、浮浪者なんだから
――こっちくんな!
――汚い、気持ち悪い
なんて、僕を貶す言葉が勢ぞろいだった。


「**を馬鹿にしないで!何も知らないくせに!」


あの子はいつでも正義のヒーローだった。
僕を助けてくれる。僕のヒーローだった。
だけども、あの日、僕は彼女を見捨てた。






ハイザキは僕を殺そうとした。
どうやら学校の人たちに唆されて僕が悪いことしていると言われたんだ。
でも僕にとって彼女の行動はとても信じられない上に、絶望に叩き落とされてしまった。
正義のヒーローなんて嘘っぱち。
正義のヒーローなんてだだの幻想。
彼女は正義のヒーローなんかじゃない。彼女も普通の人間なんだ。

ハイザキは僕を殺してそのまま立ち去った。
でも僕は死なない。死ねない。
僕は特殊な体質なのだ。どうやら僕は不老不死のようで、刺された場所が痛むのに全く死なない。
明日どうやって学校に顔を出せばいいのだろう。
彼女は僕を殺したと思っているだろう。そしてそれをそそのかした奴らも。
――――どうして、僕は君を……――
途中で思うのをやめた。
もしかしたら彼女も気持ち悪いと思ってるのだろうし。
僕はそんなことを考えながら次の日、学校へと向かった。
案の定、皆から嫌な目で見られた。ハイザキも僕を見て驚愕していた。


「あ、貴方……死んだはずじゃ…!?」


やっぱり、死んだと思ってたんだ。
少し傷ついたけど、これで確信がついた。


「……死んでない、よ」


そう言うと彼女に童謡が走った。
それはクラスのみんなも同じ。
特に僕をいじめていた男子たちがざわざわとし始めた。
彼らが僕の妙な噂をでっち上げてハイザキに僕を殺させようとしたんだ。
そう思うとなにか、心が痛くなった。

帰り道、例の男の子達が僕の行く道を塞いで立っていた。
ハイザキから話を聞いていたようで彼らの手に持っているのは凶器の数々。
嗚呼――――この世界はもう腐っているんだな。
腐って腐ってもう腐りまくっている。
こんな世界、なくなってしまえばいい。みんないなくなればいい。
世界に色なんてなくていい。世界に時間なんてなくてもいい。こいつらなんて必要ない。他人なんて必要ない。
嫌い嫌い嫌い、他人なんて大嫌い。
世界が――――灰色になって、時も止まってしまえばいいのに。








そう願った刹那、大きな音がした。
すると世界が灰色に染まっていた。さっきまで色とりどりだった世界が。灰色に。
正確には、灰色が皆を飲み込んでいっているんだ。
灰色に飲み込まれた人たちは動かなくなり、しまいには背景みたいに同化してしまった。
僕も灰色に染まっていたが、僕は自由に動くことができた。そして歩き出すと、教室の外はまだ色があった。
廊下に出ると、足を置いた床から灰色が染まり、他の子達が悲鳴を上げて動かなくなる。
いじめてた男の子達が僕が近づくたびに許してくれと言ってきたが、どうでもよかった。


「哀、止めて」


彼女がいた。
男の子達をかばっている。
なんでかばってるの?なんで、その子達は僕をいじめたんだよ。
こうなって当然じゃないのか?ハイザキもそっちの味方なの?


――――「違う、味方じゃない。でも、こんなの間違ってるわ」
何が間違ってるのさ。やっぱり君もそいつらの仲間だったんだね。
僕を刺し殺そうとした時にうすうす感づいたけどさ。やっぱりそうだったんだ。
じゃあ、僕と出会ったのも偶然じゃなくて仕組まれてたんだ。僕を虐めの対象にさせるために助けたんでしょ?
……あ、その顔は図星?あはは、面白い。
気づいてないと思ってた?だって君、出会ったとき怪我してたじゃない。
でも今はそれが消えてる。ケガって言っても一箇所じゃない、何箇所にも。
ハイザキは彼らにいじめられていた。だから代わりを探していた。そこに僕がいた。
浮浪者の僕が虐めにあっても、例え死んだとしても浮浪者だから、親がいないからお咎めは無しって?

――――「ち、ちがっ」
何が違うのさ。
僕ね、親戚中にたらい回しにされてた時期があったから人の観察は得意なの。
君さいちいちいちいち僕を見るたびにいい獲物見つけたみたいな顔しててさ。
何?そんなに僕が弱そうに見えた?
そうだね、僕は弱いよ。少なくとも君らよりは強いんだけどね。
でもハイザキ、君だけ助けてあげようか?
その男の子たちを差し出してくれたら、君を灰色に染めさせない。

――――「あ、哀、くん」
彼女は僕に縋り付いてきた。
助けて、と。僕はそれを肯定と捉えて、世界を灰色に染め上げた。




それから数十年。
流石は人間、そう長くは生きられないようだ。
ハイザキはおばあさんになって今、布団で眠っている。
一方で僕は年を一切とっておらず、あの時のまま。14歳のまま。
ハイザキは最後にこう言った。「ごめんなさい」と。僕に対してなのか、それともあの男の子達に向けてか。
とうとう僕は一人ぼっちになった。

それから数百年。
僕の望んだ世界とはなんだっただろうか。
こんな灰色だけの世界なんて大嫌いだ。
でも彼女、名前を忘れた彼女はこういっていた。「哀の灰色の世界は好き」と。
だから今度は僕が灰色の世界を愛してあげる。




――「灰色に染まった世界は、只々、虚しいだろう」



僕は開いていた本を閉じた。












灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれて泣いてた
君に伝えたかった
「大好きだったよ」と


灰色の街並みは
とても哀しみで溢れていて
灰色の街灯さえ哭いている
そんな悲しい町並みを
君は笑顔で愛していました
だけれど君の愛は
枯れてしまったのでした


灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれ泣いていた
君の愛したこの世界が
君のために涙してくれてること
見えていますか?


いつの間にか幾年が過ぎ
もう何百年になりました
灰色の街並みはガラリと変わって
ふと空を見上げようとも
景色を眺めようとも
すべてが灰色になったこの世界は
動くことはないのです

一色しか知らないこの街は
赤色なんて知らないのでしょう
では僕が吐き出すこの色は
緑色(ナニイロ)というのでしょうか

一秒も進まないこの街は
空の色なんて知らないのでしょう
では僕が見たあの夕焼けは
一体何だったのでしょうか


灰色に染まった世界で
僕は風に吹かれ泣いていた
君の愛した世界が
君ために涙してくれてること
知っていますか?


灰色に染まった世界で
僕は今日もひとりで生きている
君の愛した世界は
今日も明日も変わらない
何も変わりゃしない


灰色に染まった世界で
僕は番人さんと出会いました
灰色に染まった世界を
今度こそ愛してあげよう
「おはよう」と朝を伝えよう
「おやすみ」と夜を伝えよう




君の愛した世界で
これからも

【ドッペル少女の憂鬱】著:京子



電灯の明かりすら届かない小さな夜道を歩く影。

影は息を吸い込んでよ道の先に佇む旧校舎へ。
木造校舎が軋む。


ギッ。ギッ。ギッ。

ようやく目的地についた影は扉に手をかける。
しかしその手は途中でとどまり、宙を舞う。


ギッ、ギッ

誰かが来る。


ギッギッギッギッ

バキッ、バキッバキッ


誰かがいる。


ギッギッギッギッギッギッギッギッギ
ギッギッギッギッギッギッギッギッバキバキバキバキギッギッギッギッギッギッギッギッバキバキバキバキドンドンドンドンギッギッギッギッギッギッギッギッ


尋常ではない音。
走っている足音。
地団駄をする音。
何かを壊す音。


耳を劈く、痛い
痛くて影は、少年はしゃがんで耳をふさいだ。


――――こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい


後ろに誰かがいる。
真後ろ、ちょうど自分の背中のところに人の気配。

フフフッ、とソレは笑ってこう言った。



『貴方の顔、ちょうだい?』











 


「ふーん…ドッペルゲンガーに似てる様なお話ね」


足を組みながらリボンを靡かせ京子は読んでいた本に栞を差した。
話を終えた京子の友人は「でも最近有名な怪事件だよ?」と話の元の事件を話し出す。
友人はその事件を担当している警察の娘でもあり、情報に困っていないようだ。
京子はうんざりとした顔で友人の話に耳を傾ける。

すると部活終了の合図もといチャイムが学校中に鳴り響く。
友人はソレを聞くと慌ただしく帰り支度をし始める。
いち早く友人は帰りの挨拶を澄ますと玄関へと向かった。これも日常茶飯事。心配はない。
京子は友人の慌しさにため息をつきつつ、自分も帰宅路についた。
高校生と言えども、部活帰りなのだから道はもうすでに暗い。


「『貴方の顔、ちょうだい?』……ね」


ふと友人の言葉を思い出す。
『ドッペル少女』は必ず『貴方の顔、ちょうだい』と言うのだそうだ。
人は怖くなり、少女を押し飛ばすがその時には既に少女は押し飛ばしたその人に成り代わっている。
姿かたちが瓜二つ。まるで『ドッペルゲンガー』のように。
彼女はマンションについて鍵を取り出す。


京子は物心着いた時から一人ぼっちだった。
敵を作らず、それでいて自由を謳歌している。とても大人びている不思議な子であった。
そんな彼女に転機が訪れる。
自分の特殊な能力に目覚めたのだ。
相手に触れるまたは触れさせることにより自分の姿形を相手と瓜二つにできる。コピーできるのだ。
だが全く一緒に出来るのは容姿のみ。中身、性格は変えられない。
孤児院にいたときは孤児院の友達全員と孤児院に勤めていた大人たち全員の姿をコピーした。楽しかったのだ。
それから彼女が嫌われ者になるには時間は掛からなかった。


――「私は気持ち悪い」「私はおかしい」「私は、汚い」

――「なにがダメなの?みんなのようにはなれないの?」



幼い彼女にとっては一番の疑問だった。
自分の特殊な力は皆持っているのだと思っていたのだから。
周りが冷たい視線を向けてくる意味がわからなかった。
いつしか彼女はこう思い始めた。

(本当の私はなんなの?)

(私は、ただ私はみんなに認めてもらいたいだけなのに)

(誰か助けて)

(私を、誰でもいい。誰か助けてください)

手を伸ばしても誰も彼女を見ない。誰ひとり彼女を助けない。
苦痛に彼女は決心した。
『普通の女の子』と『ドッペル少女』。昼と夜とで違う姿になろうと。
そうすれば昼の自分、つまり『普通の女の子』は皆と平等に皆に振り向いてくれる。
京子のにらんだ通り昼の彼女は皆から愛された。
いろんな人たちとコミュニケーションをとっていた京子は初めましての人とでもすぐに仲良くなれた。
明るい性格。それでいて喜怒哀楽がしっかりとある美人。
男子からも女子からもモテた。その美貌からとある事務所からモデルのオファーが来るほど。

「京子ちゃん!お願いがあるの!」
高校生になったとき、中学校からの友人に頼まれオカルト研究部に入部した。
部員が少ないため活動はもっぱら自由行動。
自由に学校内で噂やオカルト関係について調べるだけの部である。
そして年月が過ぎ、今に至る。




「つっかれたー」


彼女はカバンを机の上に置くと制服のままベットに寝転がる。
ベットの上にあるクッションを握り締め、目を閉じる。

――――こんなところで何してる?
無愛想な女性の声が聞こえる。

――――なるほどな

――――私の家を使うか?しばらく帰ってこれないのでな
その女性は京子の命の恩人。


――――私か?私は……安杏(あんず)だ


「……安杏さん」


安杏はもう何年間も帰ってきていない。
仕事の都合だと前に聞かされた覚えがあるが、いつ聞かされたのかもう思い出せない。
京子はクッションを握り締めたまま、ベットの上で丸まった。



そのまま朝が来た。
今日は学校も仕事も休みなので一日中家にいる。
彼女はとりあえずそのまま寝てしまったので私服に着替え始める。
下着姿で鏡の前に立つ。
顔、首、肩、鎖骨、胸、二の腕、手首、手、お腹、お尻、太もも、ふくらはぎ…自分の体をまじまじと見つめる。
彼女は自分自身の姿が綺麗なのか、汚いのか自分で理解できないのだ。
だからせめて、太っていないかを確認するのが日課になっていた。
異常がないことがわかると彼女はようやく私服に着替えた。
そしてテレビのチャンネルをいじる。
ピッピッピッとチャンネルの切り替わる音が数回して、ようやくチャンネルの切り替わりが終わった。


「……うーん…情報収集でもしようかな」


そう呟くのと恭子がパソコンを起動するのは同時だった。
パスワードを凄まじい速さで入力し、ウィンドウが開く。
途端にパソコン画面一面に数字と文字の羅列。普通であればなにか異常かと思うだろうが京子は違う。
何故なら、この羅列は彼女が起こしたもの。
京子は『ドッペル少女』、『モデル』でありながら『ハッカー』でもある。
ハッカー』の才能を生かし『情報屋』としても社会に貢献している。もちろん、政府から承諾を受けて。

そして今日も、彼女の憂鬱な日々が幕を開けた。














ドッペル少女
次のお顔は際どいあの人
ドッペル少女
次の姿は哀しいあの人


「私は普通になりたいの」なんて言ってさ
「私は普通の女の子なの」なんて言ってさ
結局いつものあの言葉
「貴方の顔をちょうだいな」

「どうすれば愛してくれる?」
「どうすれば認めてくれる?」
走って走ってたどり着く
ドッペルゲンガー少女は何を見た


ドッペル少女は今日も行く
素敵な姿を手に入れるため
ドッペル少女は笑ってる
素敵な姿で歩いてる

ドッペル少女はにこやかに
街の中に立っている
ドッペル少女は泣いている
所詮はただの偽物だ


今日も今日とて求め歩く
素敵な姿を手に入れるため
「貴方の顔をちょうだいな」
こんなことはやめられない
誰か助けてよ…!

傷ついた心(汚い自分)
貶された心(私は誰?)
いつもいつも泥だらけ
父さん母さん私を捨てて(死んじゃった)
助けてくれる人はもういない


ドッペル少女は今日も行く
自分を助けてくれる人を探して
ドッペル少女は今日も行く
奇怪な噂を掻き立てて

ドッペル少女は悲しげに
夕焼け小焼けを眺めてる
ドッペル少女は屋上で
静かに静かに飛び降りた